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プログレってどうなの? 3 ~ 面白ければ間違っていてもよい~ピンク・フロイド

店長日記セレクト
サード・イアーの密かな愉しみ~プログレってどうなの? 3

ー面白ければ間違っていてもよい~ピンク・フロイドー

前回の、『サイケ・ミュージックとは、ドラッグ体験を音楽で表現してみせる試みに始まり、面白ければ間違っていてもよいという精神にのっとって、表現・創作活動を行うものとする。その場合、必ずしもドラッグを必要条件としない』に基づいて、第1回のフォローに戻ってみる。まずはピンク・フロイド。
以下、友人S、店主K。 


S「面白ければ間違っていてもよいという精神にのっとって、ちゃんと音楽に向き合うという意味では、プログレも同じだよね」。

K「そうね、演奏する側も聴く側も、お互いに相互作用する」。

S「より沢山売れる為のパターンや形を模索して、そこに収斂していくポップスとは根本的に違う・・・・別にポップス批判ではないけど」。

K「うん、ポップスは、それはそれでアリだよね、元々性質が違うものだからね。で、だからある程度以上売れちゃうと、諸々の大人の事情ってやつでパターンの収斂にならざる得ないというか、バンド側の音楽性が優先しにくくなっていく」。

S「フロイドが狂気以降に辿った道なのか?」。

K「う~ん、それで言うならウォール以降だろうな。狂気から制作手法や方向性が変わったのは明らかなのだけど、別に最初から売ることを最優先して考えてたわけではないだろうし、あんなに売れるとも思ってなかったんじゃないかな」。

S「でも、ウォーターズ主導になったのは確かだよね。ポンペイでもウォーターズが1人でシコシコやってたり、ギルモアにダメ出しするシーンがけっこう挿入されてたもの。炎のようこそマシーンへも、ほとんどウォーターズが1人で作ってる」。

K「そうだね、逆に虚空のスキャットやクレイジー・ダイアモンド・パート2なんかは、ほとんどライト1人の独壇場。でも、葉巻はいかがでは、誰もボーカルがハマらないってんで、スタジオに遊びにきたロイ・ハーパーを使ったりしてる。アニマルズはギルモアが頑張ってたりするし、分業体制が進行しつつも、この3枚の間はフロイド自体も模索してたんじゃないかな・・・・」。

S「ウォーターズは、葉巻はいかがは自分が歌いたかったって今でも思ってるみたいだけど」。

K「ハーパーのボーカルは、ものすごくカッコいいよね、ハマってる」。

S「うん、本人の思いは別として、あれはハーパーで正解と思うよ。でも、ともかくも狂気がバカ売れして、マネーが大ヒット・シングルになって、メンバー達も迷っていた・・・・」。

K「そう、売れるパターンへの収斂が、レーベル側から要求され始める。『ベスト・セラーになりました、全英ナンバー・ワン・シングルになりました、この調子で次はもっといきましょう』って」。

S「わははは、あなた達の肩に数千人の社員の生活がかかってますってやつね、すごいプレッシャーだろうな」。

K「だろうね。でも何か、シド・バレットがいた頃に似てる気がしない?」。

S「あ~、そうかも。『アーノルド・レーンとシー・エミリー・プレイがヒットしました、この調子で次はもっといきましょう』って・・・・」。

K「そうそう、デジャヴ。元々フロイドはブルース・バンドとして始まったわけだけど、初期のヒット・シングルはほとんどシドが書いているし、女の子達にアピールするテクニカラー・サイケ・バンドとしても、人気はシドに集中していた。彼のワンマンに近かったよね」。

S「サウンド的にもセールス的にもシドのバンドだね。何もかもがシド中心で動いていた、彼なしは考えられない。してみると、このバンドはワンマンに親和性がある・・・・」。

K「うん、ははは、そうだね。でも、シドは早々とLSDのオーバードーズでダメになっちゃう。困った状態だったと思うよ、なんせライヴを平気ですっぽかすんだから。ギルモアをサポートで入れるけど、やっぱりシドはダメで、結局シド抜きの路線変更を余儀なくされて・・・・」。

S「その路線変更だけど、シングル・ヒット狙いのテクニカラー・サイケからプログレへということになるのかな?」。

K「いや、まだプログレじゃない。というか、68年にはまだプログレなんてないんだよね、多分。微妙な言い回しになるけど、神秘は、あえて言うなら『その後のプログレへの萌芽を含んだアート・ロック的サウンド』てことになるんじゃないかな」。

S「なるほどアート・ロックね、でも、それならシドがいた頃もアート・ロック的な・・・・」。

K「確かに、夜明けの口笛吹きにもアート・ロック的な要素はあるよ。でも、やっぱり基本はシングル・ヒット狙い路線だよね、両方の要素がある。だけど神秘は明らかにヒット狙い路線じゃない、変なことやるほうを優先してる」。

S「そうだな、スパっと線は引けないな。この時期変なこと優先してるというと、サージェント・ペパーズ、サタニック・マジェスティーズや、クリーム、フー、トラフィック、ブロッサム・トゥズ・・・・」。

K「うん、他にも初期ソフト・マシーン、ファミリー、ジェスロ・タル、アンドウェラズ・ドリーム、ジュライ、カレイドスコープなどなど。そんなテクニカラー・サイケとアート・ロックのゴッタ煮的状況の中に、当時のイギリスではプログレやハード・ロックの萌芽が生まれ、制作サイドもそれがセールスに結びつくと判断して、その方向でやってもいいよってことになった」。

S「フリップの言う魔法の扉が開いたんだな」。

K「そうそう、だから、フロイドとしてはタイミングがよかったというか、ある意味ラッキーだったんだよ。実際には苦労も色々あったろうけど、シドのワンマン制から4人のバンド制への移行が、制作サイドとの摩擦が少ない状態で出来る状況があった」。

S「そしてモア。映画界でもカウンター・カルチャーをモチーフとしたニュー・シネマが隆盛してきて、映画音楽をロック・バンドにっていう追風も吹いてた」。

K「うん、スタンリー・キューブリックの2001年宇宙の旅のサントラをフロイドにっていう話もあったらしい。モアは、シンバライン、グリーン・イズ・ザ・カラー、サイラス・マイナーなど、アシッド・フォーク調の哀しげでいい曲が多いよね」。

S「ナイル・ソングやイビザ・バーもB級ハードでカッコいい」。

K「そうね、神秘から雲の影までのフロイドには、ブルースを基調としながらも、アシッド・フォーク、ハード・ロック、実験音楽の要素が常に混在している」。

S「アシッド・フォークといえば、原子心母のB面とかさ。アランのサイケデリック・ブレックファーストなんていいよね」。

K「うん、すごくいい、台所の音も演奏も心地好い。それはもう、正しくサイケだよ」。

S「お湯わかしてお茶入れて、目玉焼き焼いて、パンにマーマレード塗ってただ食ってるだけなんだけどね。とにかく音が心地好い、アラン・パーソンズは凄いよ」。

K「あと、おせっかいのA面。ピロウ・オブ・ウインズ、フィアレス、サン・トロペの流れはとてもいいよ。シーマスのブルースも含めもう完全に湿った英国の香りアシッド・フォーク」。

S「ああ、フロイドをアシッド・フォークとして聴く人はあんまりいないだろうなぁ。でもその要素は多々ある。基本的に暗いんだよね、サイケの精神に則った暗さ。そして新しい・・・・」。

K「そうそう、72年のブライトンのライヴ映像のユージンなんか、最早ピンク・フロイドという新しいジャンルとしか言い様のないサウンドを演奏してる」。

S「あれはカッコいいね、ほんとカッコいい。それに、エコーズのイントロ」。

K「あぁ、コーラス・オルガン」。

S「あの音はもう発明といっていいよね、素晴らしい」。

K「クレイジー・ダイアモンド・パート1のカラスと螺旋」。

S「イントロのとこね、こういうのが面白いのもフロイドの魅力」。

K「そう、大きな魅力。で、狂気の直前なんだよね、ブライトンもポンペイも。というかライヴではもう狂気の原曲を演奏してたし、レコーディングも始まっていた」。

S「ブライトンもポンペイも、それまでのサウンドと違和感はないよね。前にもいったけど、その時期の狂気の原曲もちゃんとイモっぽい」。

K「うん、72年は大規模なツアーをやってるし、札幌公演もあった2度目の来日もしてる。さらにフランスで雲の影のレコーディングを短期間でやってたり、ポンペイもリリースしたりで、かなり過密スケジュールな感じなんだよ。狂気のレコーディングが分業体制になっていったのは、その辺りにも起因するんじゃないかな」。

S「なるほどな・・・・ウォーターズが提案した、人の内面の狂気という重たいモチーフだけど、忙しくてゆったりセッションしながら詰めていく感じにならなかったと。いいだしっぺのウォーターズが詩は全部書くし、サウンドもどんどんウォーターズ主導になっていったんだな」。

K「多分ね。ライヴでやっていた原曲を、ウォーターズがあれこれいじってどんどん洗練させていった。と同時に、リアルなバンド感や生々しさは消えていく・・・・」。

S「うんうん、バンド感や生々しさは消えていく・・・・あからさまなドラッグ色も。そして、この頃からフロイドはコンセプト好きになるね。コンセプトに基づいて曲やアルバムを作るようになる。狂気、炎、アニマルズ・・・・」。

K「そうね、炎なんて、最初は楽器を使わないっていうコンセプトでやろうとしてた。アルバム全てではなかったのかも知れないけど、少なくともそういう組曲をやろうとしていた」。

S「日用品組曲だな。1.薬缶、2.輪ゴム、3.ナイフとフォーク、4.ワイングラス・・・・」。

K「ふふふふ、それはそれで聴いてみたかったけど・・・・でも、コンセプト好きなのは、フロイドというよりウォーターズだよね、やっぱり。何かある種の神経質な使命感みたいなものを感じる」。

S「そうだな、ウォーターズだ。ソロも含めて、消費社会とか、管理社会とか、音楽業界とか、ファシズムとか戦争とか、テーマ決めて批判してるね」。

K「でも、狂気が成功して、炎もアニマルズも順当に売れて、押しも押されぬビッグネームになっちゃったこともあって、小難しいコンセプトや批判メッセージにも、制作サイドがあまり文句を言わない」。

S「ライヴの赤字はバンド側負担だしな。レコード会社側としては、盤が売れてくれればそれでいい・・・・」。

K「でも、ウォーターズの持ってくるコンセプトに対して、他のメンバー達はどうだったんだろうね?」。

S「売れちゃってるから、結果オーライのところはあったろうけど、正直面倒くささやうざったさはあったんじゃない?」。

K「うん、そんな中でウォーターズが父親への思いを絡めた戦争と管理社会モチーフのテーマを提案する・・・・」。

S「ウォールだね。以前からウォーターズは父親への恨みつらみを愚痴っていて、特にライトは辟易していたらしいね、またオヤジの話かよ、社会批判ももうアニマルズでやったじゃない、そんなのまたマジでやるのって」。

K「一応ディスカッション的なものはあったみたいだけど、ウォーターズがもう構想はほとんど出来てるってんで引かなくて、じゃあ好きにすればってなっちゃった」。

S「完全にウォーターズ主導になっちゃったわけだな。他のメンバーは少しシラケ気味で・・・・」。

K「そして、ウォールは大ヒットして、バンド側が自費を投じた大掛かりな仕掛けのライヴ・ツアーも成功し、映画まで作っちゃった」。

S「ロック・スターとしての世界のピンク・フロイドになるわけだ」。

K「そう、完全にエンターテインメントとしてのフロイド、別にいい悪いの問題ではなくてね。その後、ライトが脱退して、音質をよくしたベスト盤やウォールの続編としてファイナル・カットを制作するけど、でもバンドとしてはもう終わってる・・・・」。

S「確かにもうバンドじゃない。ファイナル・カットはわりと好きだったりするんだけど、もうライトがいないんだよなぁ。最早ウォーターズのソロに近いよね」。

K「うん、で、今度はウォーターズ抜きでウォール路線での再編。鬱以降の作品は、メロディアスでキャッチーで、ギルモアのギターも心地好いけど、ウォーターズの詩もなくなってしまって、もうサイケの精神はどこにも・・・・」。

S「ないね。ライヴは往年の名曲中心の懐メロ的構成だものね。視覚的には正しくサイケで楽しめるけど」。

K「うん、サウンドも楽しめるけど、もうプログレじゃない。面白ければ間違っていてもよいという姿勢はないよね、もう間違ってないし、変なことをやるハミ出す個性もない。ハーパーが『最近のフロイドはなってない、ギルモアはウォーターズという詩人を失って迷子になってる』って言ってた」。

S「迷子・・・・確かに的を射てる。洗練されたけど、ポップネスに個性が埋没してしまった。もう完全にメンストリーム、わかりません一派じゃない」。

K「うん、はい一派・・・・」。

S「そうそう、わかりません一派ロック、定義しとこうよ」。

K「了解、では次回、クリムゾンも絡めて・・・・」。

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