プログレってどうなの? 1 ~ 消えゆくインプロ
店長日記セレクトサード・イアーの密かな愉しみ~プログレってどうなの? 1
ー消えゆくインプロー
先日友人と話していた時に、「プログレってどうなの、もう死んでるんじゃない?」なんて話題が出た。
なるほど、では『プログレはすでに死んでいる』として、ならばそれは何時頃なのか?。
以下、友人S、店主Kとする。
S「ELPのラヴ・ビーチ。日焼けしたメンバーがアロハ・シャツ着て笑ってるんだぜ、内容もELPである必然を感じられないサウンドだったし、プログレの終焉と思ったね」。
K「うん、確かに・・・・イエスのトーマト、ジェネシスのそして3人が残った、フロイドのウォール、そしてラヴ・ビーチ、全て78,79年辺り。判りやすいポップス指向への明らかなシフト・チェンジがあったね。でも、実はもっと前なんじゃないかな」。
S「というと?」。
K「例えば、フロイドなら狂気。サイケの亜流としてのプログレは雲の影までだよ。狂気以降には、それまであったアングラでイモっぽいサイケ感がないもの。洗練されたという言い方もあるけど、単なる洗練というより方向性自体が違っている感じ。リリース以前の狂気の曲をやっているライヴ音源を聴くと、まだサイケなんだよね、ギルモアのギターなんかそんなにメロディアスじゃないし」。
S「それはそうかも、ライヴ音源にはまだ混沌とした妖しさがあるね。そうすると、狂気のレコーディング中に何かが・・・・」。
K「そう、多分ね。もしかしてニック・メイソンがあまり口を出さなくなったんじゃないかな。ウォーターズのワンマンかなんかは判らないけど、少なくとも4人の共同作業的部分が大幅に縮小した・・・・」。
S「誰かが持って来たネタを、皆でセッションして練ったりアレンジを皆で考えたりしなくなった」。
K「うん、分業・分担制が強くなって、あまりセッションしなくなったんだよ、きっと。担当が1人でスタジオにこもってあれこれやってることが多い」。
S「なるほど、言えてるかもな。他のバンドは?」。
K「う~ん、それぞれ状況は異なるだろうけど、イエスなんかはプログレだったのは初期2枚で、サード以降はハード・ロックの亜流だしね。クリムゾンは暗黒の世界、というかUSAにも収録された74年6月のUSツアーまでという感じ。このバンドは変遷が大きくて簡単にはいかないけど、リザードからアースバウンドまでの71~72年と、暗黒の世界からUSツアーまでの73~74年と別種のピークが2回ある」。
S「わはははは、イエスはサードですでにプログレじゃないと。フリップは、60年代末のある一時期だけミュージシャンへの魔法の扉が開いていたと言っていたけど・・・・」。
K「フリップの発言の真意は知る由もないけど、セールスを度外視して作品を作ってもよいという、ミュージシャンにとって稀なよい時代が一時期あったということかな。・・・作品を制作してそれを売る為にツアーする日々は、ともかくも消耗の一言である。もし君にはっきりとしたやりたい音楽のヴィジョンがあり、それがセールスに結びつきづらいものならば、プロになることは勧めない、アマチュアのままでやりなさい・・・というようなことも言ってた」。
S「ツアーに疲れてバンドを辞めるパターンは多いな。連日インプロを交えて真剣に演奏してたら、確かにシンドくなるよね。調子悪くて出来のよくない日だってあるだろうし、決まったアレンジのルーティンだったら飽きるだろうし。切ないが深い話だね」。
K「そうそう、ライヴでインプロをやらなくなっていくんだよ、多分作曲段階でも。プログレが死んだとするなら、それが大きな要因の1つなんじゃないかな、一概には言えないけど・・・・」。
S「あ~、サイケの亜流としてのプログレの死だね、少なくともバンド感の死だ。とすると、時期を特定するのは難しいのか?」。
K「うん、何時頃だとクッキリとはいかないかもね。ただ、いずれにせよ、プログレへのアンチ・テーゼとして75年にセックス・ピストルズが登場した時点で、プログレを『壊すべきジャンル』として認知する連中が現われたということだから、プログレはメインストリームの1つとして定着してしまっていたわけで、ならばその時点でサイケの亜流としてのプログレは死んでるよね」。
S「様式が洗練されて、ジャンルとして定着したと同時に形骸化してしまったということか・・・・」。
・・・・こんな事は、興味のない人にとっては全くもってどうでもよいだろうが、この文章を読む人は多少なりともプログレに興味があるとして、また、巷のピンク・フロイドのファンにおいては、狂気以前より以降が好きな人が多分圧倒的に多いだろうし、キング・クリムゾンのピークに関して違和感があったり、イエスのサード以降をプログレの典型とする人も多いだろうという気もするので、補足も兼ねて次回に続く。
2020-10-17 19:31