国内のP・ヴァインから、23年にトピック・レーベルの保管庫から新たに発見された、本作制作時の未発表音源4曲をボーナスで加えての、24年新規リマスターでの新装リシュー。アン・ブリッグスはノッティンガムシャー州ビーストン出身の女性トラディシャンまたはシンガー・ソング・ライター(SSW)で、幼くして母を失い父は傷痍軍人となって叔母夫婦に育てられた。15歳の59年に友人とエジンバラに自転車旅行にいった際にアーチー・フィッシャーと出会い、フィッシャーにスコットランドのトラッドの手解きを受けるとともにバート・ヤンシュを紹介される。以降はヤンシュとも親交を続けながら作曲とライヴ活動を行い、エヴァン・マッコールとA.L.ロイドの目に止まってデビューへと至った。本作は、71年にUKトピックからリリースされたファースト・アルバムで、24年トピックLP+EP盤の英文ライナーとその対訳、歌詞・対訳掲載のブックレット2冊入、24年トピック盤のリマスター音源をそのまま使用。御大A.L.ロイドのプロデュースの下、時折ジョン・モイニハン(ex.プランクシティ,etc)のブズーキが入るが、多くはアンのギターかブズーキの弾語り、または無伴奏シンギングによるシンプルな演奏。「ブラックウォーター・サイド」や「ウィリー・オー・ウインズベリー」、「カッコー」等々の著名バラッドや、ヤンシュがカヴァーしたブリッグスのオリジナル「ゴー・ユア・ウェイ」などが、枯れた佇まいで淡々と流れていく感じは非常に心地好く、浮世離れした別世界的様相のサウンド。この、例えばカレン・ダルトン辺りにも通じるダメダメ感十分のアンニュイさと、前に出ない感じの小春日和的なくぐもり感は、トラッドの持つ悠久の時間が滲み出ているとも云えて、その意味ではシャーリー・コリンズとはまた違ったオーセンティック感を放つ、素敵なトラッド&フォーク集と思う。
P・ヴァイン盤
(Trad&Folk/British Trad,SSW / Jewel-case CD(2024 Re-master) / P-Vine/Japan)