国内のアルカンジェロからのリリース。ユタカ・ヒロセ(広瀬豊)は山梨県甲府市出身のキーボーティスト兼サウンド・デザイナーで、芦川聡や吉村弘が所属していたサウンド・プロセス・デザイン・オフィス関連の、ミサワホーム企画「サウンドスケープ」シリーズの1枚として、唯一のアルバムとなる「Nova」を86年にリリースした。本作は、「Nova」後の87~91年に広瀬の自宅スタジオでレコーディングされていた未発表マテリアル集で、全て初出音源、ライナーは不思議音楽館の井上立人と角田俊也。ミニ・ムーグ、プロフェット600、ヤマハDX7、アンソニック・ミラージュ、アカイS900、コルグ・ウエーヴステーション、その他アコースティック楽器とエフェクターを駆使した、自然の情景描写的なドローン・アンビエント調サウンドを展開。無機感と有機感の狭間にほのかで淡い情感が交叉して、ダイナミックな自然現象のイメージが立ち上がってくるようなサウンドスケープは、概ね「Nova」を継承している印象で、その意味では一貫して環境音楽による空間構築と演出がテーマなのかも知れない。耳触りのよいノイズ・フラグメントを軸に、涼やかなベルやエレピ方面の音色も絡めて、はっきりとしたメロディやパッセージのないアブストラクトさを担保しつつ、何かしらの情景や風景イメージが絶えず喚起される。どの曲も、常に『水』の流れや動きが感じられ、それがともかくも心地好く、正しくサイケで非常に見事な環境音楽系の好盤と思う。この、音が拡がって響き渡る感覚は素敵。
アルカンジェロ盤
(Psyche/Ambient,Drone,Soundscape / Jewel-case CD(2022) / Arcangelo/Japan)