USAのワンシーン・ワールド、限定ペーパースリーヴでのリリース。ギルマ・イフラシェワはアディス・アベバ出身のエチオピア人ピアニスト兼コンポーザーで、16歳からアディス・アベバ大学付属のヤレド音楽学校でピアノを始め、さらにブルガリアのソフィア音楽院に留学してピアノと作曲を学んだ。本作は、05年と13年にソフィアでレコーディングされたオーケストラ曲と室内楽曲の、2種のマテリアルをコンパイルしたアルバム。メンバーは、13年(1~6曲目)がイフラシェワ、イワイロ・ダナイロフ、ワレンティン・トシェフ、ヴィクトル・トライコフ、ミハイル・ジフコフの5人による室内楽編成、05年(7曲目)がソフィア・フィルハーモニー・オーケストラ、オーケストレーションはヴェンツォ・ミトソフ、監督はディアン・チチョバノフ。ピアノ、ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロ、クラリネットの室内楽5重奏は、概ね存外にエレガントかつ涼やかで、耳触りの柔らかいトーンとゆるやかだが小気味のよいダイナミズムが、「春」的な装いの風を運んでくる感じの爽やかさ十分。オーケストラによる管弦楽曲も、それ程テイストに大きな違いはない感じだが、例えば冨田勲の「新日本紀行」のテーマ曲辺りに近似する、ちょっと独特の懐かしさ内包の郷愁感があって、どこか日本的で儚げな情感に収束。その、エチオピアのペンタトニック音階に起因する何かしらの日本感は、結局室内楽曲の背後にも見え隠れしていて、特に昭和時代やある程度田舎の生活を知っている人なら、この情感にけっこうすんなりと浸れるかも知れない。イフラシェワが生まれ育ったエチオピアの風土に、何か日本と共通するものがあるのかはわからないが、ともかくも流していて心地好く、淡い情感が美しい好盤と思う。
輸入盤
(Psyche/Chamber,Progressive,Ambient / Paper-Sleeve CD(2023) / Unseen World/USA)